2016年4月12日火曜日

日清カップヌードルCM:大きな波紋を呼んだ 「いまだ!バカやろう!」は、「謝罪まで含めた炎上商法」なのか

_


●「いまだ!バカやろう!」は結局、大きな波紋を呼んだ






●【日清食品CM】カップヌードルCM「OBAKA’s UNIVERSITY」放送中止




東洋経済オンライン 2016年04月12日 徳力 基彦
http://toyokeizai.net/articles/-/113263

日清「バカやろう」CMの謝罪騒動が示す皮肉
ネットとお茶の間の反応は大きく違った

■カップヌードルの新CMが1週間で放送中止

 日清カップヌードルの新しいテレビCMが開始1週間ほどで放送中止となったことが波紋を呼んでいます。
 このテレビCMは3月末から公開されたもので、ビートたけしさんが学長を務める「OBAKA's UNIVERSITY」で小林幸子さん、ムツゴロウさん、矢口真里さん、新垣隆さんといった個性的なメンバーが教員に扮し、それぞれの学部で教鞭を執るという設定。
 「いまだ! バカやろう!」
というビートたけしさんの呼びかけが非常に印象的でした。

 ただ、結果的には日清食品に多数の批判的な意見が寄せられたことで放送は取り止めとなり、日清食品がホームページにお詫び文を掲載する事態に発展しました。

 「ご不快な思いを感じさせる表現がありましたことを深くお詫び申し上げます。
 皆様のご意見を真摯に受け止め、当テレビCM、『OBAKA’s UNIVERSITY』シリーズの第1弾の放送を取り止めることに致しました」(日清食品HPより)。
 日清食品は内容を見直したうえで、このテレビCMのシリーズを展開していきたいということです。

 放送中止の実際の背景はわかりませんが、問題になったのはおそらく2013年に不倫騒動が話題になった矢口真里さんの登場シーンであるという見方が大勢を占めているようです。
 過去の報道などを総合するかぎりですが、矢口真里さんはみずからの不貞行為が原因で、離婚に至ってしまいました。
 テレビCMでは、この矢口真里さんが「危機管理の権威」として「二兎を追う者は一兎をも得ず」という格言をバックに登場しました。

 公開当初からこの内容には驚きの声が上がっていたものの、このテレビCMが公開された3月末はネットニュースや掲示板などでは、実は好意的な受け止め方が目立っていました。

★日清さん攻めすぎィ! 世間の注目を集めた有名人が次々に登場する「カップヌードル」の新テレビCMがいろんな意味でギリギリ
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1603/31/news085.html

サイゾーにいたっては、このテレビCM出演を元に矢口真里のみそぎが完了したことになるのではないかという記事を公開していたほど。

★矢口真里みそぎ完了!?完全復帰へ
http://www.cyzo.com/2016/04/post_27420_entry.html

■ネット上では賛否両論

 それが10日もたたないうちに、結局放送中止に追い込まれたことで、ネット上では「当然だろう」と見る向きもあれば、「期待していた分、ガッカリした」などという声もあり、余計に物議を醸している状況のようです。
 ネットメディアの記事のほか、芸能人や著名人などがテレビ番組やブログ、ツイッターなどでテレビCM中止に対する異論を唱えているのも目につきます。

 一部には、「謝罪まで含めた炎上商法なのではないか」という憶測も流れているようです。
 実際、日清はこれまでも主力のカップうどん「どん兵衛」について、お湯を入れて待つ時間がパッケージ記載の5分ではなく、「10分のほうが美味しい」とある芸能人が発言したのをきっかけにした「おわびプロモ」を展開。
 意図的に相手に突っ込むスキを作っておくことを「ツッコマビリティ」として公言しているようですから、
  その可能性は完全には否定できません。

 ただ、今回の「バカやろう」CMは放送中止になっているだけでなく、ウェブ上に公開されていたテレビCM動画やキャンペーンサイトまで全て削除されているようですし、個人的には炎上商法の可能性は低いと感じています。

 何も謝罪までしなくてもひっそりとテレビCMの放送を止めるとか、
 第2弾のテレビCMに切り替えてしまうとか、
 矢口真里さんのパートだけカットしたバージョンにするとか、
いろいろ手段があったかもしれません。
 それでも今回の全面中止と謝罪のバタバタを横目で見る限りは、やはり日清食品が想定していたよりも批判の声が相当多かったというのが実際のところではないでしょうか。

 これまで日清カップヌードルのテレビCMは、さまざまな挑戦的なメッセージを発してきました。
 今回のテレビCMシリーズで、ビートたけしさん演じる学長が発したのは
 「世間の声とかどうでもいい。
 大切なのは自分の声を聞くってことだろ? 
 おりこうさんじゃ時代なんか変えられねぇよ」。

 「一発レッド社会」と形容されるような、一つの不祥事によって社会的に再起不能なまでの総攻撃を受けてしまう風潮や、少し企業が尖りすぎた情報発信をすると批判を受けて謝罪する羽目に陥ってしまうという風潮に対する問題提起だったはずです。

 「いまだ! バカやろう!」というのは字面だけ見ると非常に強い言葉ですし、一部の出演者の起用方法や肩書きは個人的には違和感を持つところもなくはなかったですが、批判を恐れずにもっと挑戦しようという前向きなメッセージを発信したかったということは伝わってきました。

 テレビ関係者が、かつての「『天才たけしの元気が出るテレビ』(日本テレビ系)のような過激な番組は今の時代はもう不可能」と嘆いているシーンにはよく遭遇しますし、広告業界関係者が、企業のテレビCMが批判を恐れてどんどん無難でつまらない表現になっていく昨今のトレンドを嘆く話もよく聞きます。

 そんな中で、今回の日清のテレビCMに対して、「さすがカップヌードル、良くやった」「攻めの姿勢で面白い」という好意的な見方が出ていたのは非常に良くわかりますし、今回の放送中止に対してショックを受けている人が多いことも容易に想像できます。

 ただ、冷静に今回の騒動を振り返ってみると、今回の放送中止はいわゆる典型的なネット炎上とは異なっているのではないか?というのが私の印象です。

■大きなギャップが原因?

 つまり、今回の放送中止は、テレビCMならではの高いリーチ率が生み出してしまった独特なケースともいえるのではないかということです。
 今回の日清食品HPのお詫び文に添えられていた
 「今回のテレビCMのテーマであります『CRAZY MAKES the FUTURE.』のメッセージを伝える『OBAKA’s UNIVERSITY』シリーズは、若い世代にエールを送ることが主旨」
を読み解く限り、ターゲットにしたかった層と実際にテレビCMを見ていた多数の視聴者には大きなギャップがあったのでは、とも推察できます。

 いわゆるネット炎上系の事例というのは、最初に個人やネットメディアで企業の不祥事や企業の行為に対する批判の指摘がなされ、それが火種となってツイッターや2ちゃんねるの掲示板などで話題が盛り上がり、それをさらに既存メディアが取り上げていくことによって騒動が大きくなり、最終的に企業が謝罪に追い込まれる、というスパイラルをたどることが通常です。
 オリンピックエンブレム騒動や「保育園落ちた日本死ね」騒動などが象徴でしょう。

 ただ、今回のカップヌードルのケースは、少なくともツイッターの投稿数などの推移を見る限り、放送開始前後でみるとツイート数は放送開始前が1日1000件前後、直後に同2000件前後まで増えたものの、そこからは右肩下がりでした。
 逆に日清食品のテレビCM取り止めが明らかになった4月9日には6000件を超えており、ネットでは放送中止という判断によってかえってここで炎上したようなものです。



 いわゆるツイッターを使っているようなユーザーと批判の電話をするようなお茶の間の人たちの反応は違ったということでしょう。
 特に大きかったと思われるのが、「不倫」に対する認識のズレです。

■「不倫」に対する認識のズレ

 不倫は男性と女性で許容度がまったく異なる不祥事であるといわれます。
 不倫は個人の色恋沙汰の問題であって、犯罪ではないという議論も男性側を中心にみられがちですが、家庭を守る側に立っている女性、いわゆる「主婦」にとっては、「不倫」というのは家庭を崩壊させるリスクがある極めて許しがたい行為として受け止められます。

 当然、不倫をした人に対する許容度が最も低いのが主婦でしょう。
 先日、乙武洋匡さんが不倫騒動で謝罪リリースを公開した際に、妻が一緒に謝罪する声明を出したことによってかえって火に油を注ぐ結果になったことが象徴的です。

 実際にはその後の取材によって、その謝罪は妻自身が主張して実施したことという話もあるようですが、普通に考えたら夫の不倫の被害者であるはずの妻が謝罪する、というのは主婦目線で考えると何らかの圧力がかかったと感じて当然の構造なわけです。

 そんな中、今回の日清のテレビCMにおいては、自ら不倫をして夫を裏切った女性である矢口真里さんが「危機管理の権威」として学生に対して講釈をするという絵になっていました。

 普通に考えてみれば矢口真里さんが危機管理の権威というのはあり得ないと思いますし、矢口真里さんがしていた行為は主婦目線からすると「二兎を追う者は一兎をも得ず」という普通の女子大生の恋愛の二股のような軽い話ではなく、夫を裏切る不貞行為であって、その人間が偉そうに危機管理の講釈をするなど許せない話と感じるのはある意味当然でしょう。

 おそらく、このビートたけしさんが学長で、矢口さんがその教員という枠組みは、かつて議員との不倫騒動で業界から総スカンをくらった山本モナさんに、ビートたけしさんが救いの手をさしのべた過去をかぶらせているのだと思います。

 そういう意味では、個人的には、今回のテレビCMで矢口真里さんにビートたけし学長が二度目のチャンスをあげるという文脈を強調すればここまで批判は出なかったような気もしますが、それでは絵的に面白くなくなってしまうという話なのかもしれません。

 特に矢口真里さんがすでにテレビ番組で自身の不倫騒動を散々ネタにしていることから、矢口真里さんは自らまいた種である不倫自体を反省していないのではないか、と感じている人が多いというのも日清食品にとっては悪いほうに振れてしまった可能性があります。

 いずれにしても、好意的に受け止められていた感もあるネット上の反応と比較すると、矢口真里さんに対して良い印象を持っていない人たちからすれば、今回のテレビCMは神経を逆なでされる動画であった可能性は低くありません。

 ネット上で公開されている動画は、基本的には興味がある人が再生して閲覧するという選択権があるのに対して、テレビCMはある意味、見たくない人にも強制的に届いてしまう受け身型の強力な広告手段です。

 一度、日清カップヌードルの「バカやろう」テレビCMで、矢口真里さんの登場シーンにイラッときた人達は、その後、そのテレビCMが流れる度にイライラを募らせることになります。

 実際に今回のテレビCMがどれぐらい放送されていたかはわかりませんが、平日にあまりテレビを見ない私でも何度か遭遇した記憶がありますから、一日家でテレビを見ている主婦や年配の人々からすると相当の回数を目にしていたとしてもおかしくありません。

 ここから先はあくまで私の推測ですが、通常のテレビ番組ですら矢口真里さんの出演によってある程度のクレームが入っていたようですから、
 テレビCM放送後、日清食品がある程度予想していた範囲のクレームは入ってきていたはずです。

■クレームをつけやすい時代

 昔はテレビCMを見て不快だと思っても、そもそも企業の電話番号やメールアドレスがわからず、お茶の間でそのまま愚痴って終わっていたと思いますが、今はスマホで軽く検索すればすぐに企業の電話番号やメールアドレスがわかります。
 クレームを非常につけやすい時代になっていますし、企業も消費者のクレームにはかなり敏感になっています。

 もちろん、クレーム対応をする電話センターのオペレーターは、クレームの電話をある程度傾聴し、今後の対応を検討するなどの無難な回答をして電話を切ることになります。
 今回のようなテレビCMであれば、ある程度対応方針も決まっていたはず。
 ただ、問題になるのはクレーム電話をオペレーターが対応し終わっても、テレビCMは流れ続けている点です。
 当然、クレームをした人は電話をしたのに対応しない企業側の姿勢にさらにストレスを募らせることになります。

 そういう意味で、テレビCMを流せば流すほどクレームをした人の怒りは大きくなっていたはずで、ネット上での話題とは逆に、クレーム電話の数が日に日に増え、クレームする人のイライラが日に日に高まっていた可能性があるわけです。

 そもそも世の中に100%の人が賛成してくれる表現というのは存在しません。
 「未来の子供を大事に」といえば「老人をおざなりにするな」と反論されます。
 「女性がすばらしい」と「男性がすばらしい」という表現はそれぞれ同意と反論を生むことになります。
 
 テレビCMは「マス」に届けることができる広告手段で、見たくない人にも届いてしまうというデメリットが実はあります。
 今回の日清のテレビCMは「若い世代にエールを贈ることが主旨」だったそうですが、おそらくはメインターゲットではない人たちの神経を逆なでしすぎた結果となり、中止に至ったのではないかと想像できます。

 一般的には「テレビCMが視聴者に届きにくくなった」と業界関係者が困っている昨今で、ある意味、狙ったターゲットとは違う層に届きすぎてしまったことによって放送中止になったとしたら、実に皮肉な出来事ではあるといえます。

 いずれにしても、今回のテレビCMはあくまで第一弾という位置づけのようですし、今回の騒動を通じて日清食品の関係者の方々は、あらためてもっと「バカやろう」というエールを届けるべき人達に届ける必然性を感じておられるのではないかと思いますので。

 今回の騒動から学んだことを上手く反映されて、我々の予想を上回るようなカップヌードルらしい攻めの第二弾CMを公開される日を、期待したいと思います。



Business Journal  5月10日(火)6時1分配信
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160510-00010001-bjournal-bus_all

日清カップヌードルが八方塞がり
…中止CM擁護の声が大きくなるほど苦境が深刻化

 4月、日清食品の「カップヌードル」のテレビCM放送が開始から1週間ほどで中止になったことが話題となった。

 日清にとって本当に難題なのは、クレーマーからの批判ではなく、同社を応援してくれる有名人の声が思いのほか大きくなってしまったことで、「引くに引けなく」なってしまったことだ。
 「負けるな」
 「初心を貫け」
 「日清は正しい、クレーマーが間違っている」
などと応援され、
 いつの間にか消費者と喧嘩をしなければならないような状況に追い込まれてしまった。
  社内でも
 「やっぱり続ければよかったんだ。良識ある人はわかってくれているんだ」
などと中止反対派の声が大きくなっているのではないか。

 日清は、同じコンセプトのCMは継続するとしているが、今回中止になったCMより柔らかくなると、応援してくれていた人が
 「なんで妥協するんだ。もっと過激にすればいいのに」
となり、その逆だと
 「そこまでやれとは言わなかった」
となる可能性がある。

 同じようなCMを放送して売上が一時的に上がれば、日清は応援派の人に
  「そらみろ、俺が言ったように間違ってなかっただろう。
 売れたということは、消費者が支持してくれたということだ。
 クレーマーに勝ったんだ」
と言われる。
 
 しかし、そもそも日清は消費者と対決したいわけではないだろう。
 たとえその相手が「クレーマーだとしても」である。
 ましてや「勝った」「負けた」と言われたり、「信念を貫く」「貫かない」という問題にしたいわけでもないはずだ。
 にもかかわらず、
 「消費者に叩かれたからCMを中止にした」
 「消費者から批判されたから中止した」
という言い方をされるのは、日清としては非常に迷惑だろう。
 日清としては、
 「消費者の皆さまから、多くの貴重なお声、ご指摘をいただいたので、検討した結果中止させていただきました」
という形にしたい。

●消費者の区別なし

 消費者を相手にする業界では一般的に、
★.クレームを「批判」ではなく「苦情」
 「ご指摘」「ご要望」「ご意見」「ご忠告」と呼ぶ。
 消費者をクレーマーと呼んだり、
 「消費者に叩かれた」
 「消費者に批判された」
というような消費者に対して失礼な表現は使わない。
 「貴重なご指摘、ご意見をありがとうございました」
とする。

 また、企業にとって消費者とは、自社製品の購入者以外も含む。
 なぜなら、これから買ってくれるかもしれないからだ。
 新規のお客が増えれば、企業にとってこんなにありがたいことはないので、消費者を区別することはない。
 ましてや、消費者を一方的に批判者、因縁を付けている人だと決めつけることなどしない。

 それを十羽ひとからげにクレーマーだと決めつけ、消費者を不愉快にさせることを言う第三者の人たちは、企業にすればまさに「ありがた迷惑だ」。
 しかし、これも口が裂けても言えない。
 なぜなら、そういう人たちも同じ消費者、お客だからだ。

●消費者がヘビークレーマー化の恐れ

 もうひとつ、消費者を相手にする企業が注意しなければならないことがある。
 
 カップヌードルという若者向け商品の特徴からすると、CMに対しクレームを言っている人たちは、それを食べながらパソコンや携帯電話に向かって入力している可能性がある。
 そんな日清からすると貴重なお客に、
 「日清は有名人を使って、
 『批判している人たちは客ではなくて、ただ因縁を付けているチンピラだ』と代弁させている」
と誤解される可能性がある。
 もちろん、「そんなことを日清がすることはない」と頭でわかっていても、自分たちの存在を否定されると偏屈になるのが消費者だ。

 そう誤解した消費者が、手も付けられないようなヘビークレーマーになってしまう危険性がある。
 そうなると、今度はほかのメーカーのカップ麺を食べながら、嵐のごとく不平不満をぶつけてくるかもしれない。
 消費者を相手にしている企業にとって、ヘビークレーマーをひとりでも少なくすることは命題である。

 さらに心配なことは、ここまで「あのCMは良かった」「好きだった」という有名人を含む消費者の声が大きくなると、今まで気にしていなかった消費者が「どんなCMだったかな」とインターネットで見るようになる。
 そして
 「あの人が『良かった』と評価するということは、逆に『悪かった』と思う人が多いのではないか。
 どんなCMかじっくり見てみようかな」
という視点で見る場合と、そうではない(素直に見る)場合では、印象が変わってくる。

「ああそうか、ここがみんなが嫌だと言っているんだ」
「すごい上から目線だし、確かに消費者をバカにしているみたい」
「女性を馬鹿にしている。女性はカップヌードルを食べないと思って、無視したのかな。
 不愉快だと感じる人がいるのも無理ないな」
「なんでこんなCMをつくったのかな。
 やっぱり大企業だから、何をやっても許されると思っているんだろうな」
「応援する声が強くなって風向きが変わってきたから、有名人使って褒め殺し作戦に出たんだ」

 日清は消費者からこのように思われる危険性がある。

●日清の本音

 消費者はわがままであり、あまのじゃくだ。
 企業にとっての命題は、そんな消費者をいかに味方につけるかだ。
 素直でない消費者は「本当、いいCMだ」とはなかなか思ってくれない。
 「こんなCMのどこが良いのだろう。
 どうせ日清にオベンチャラしたい人が、良かった、好きだと言っているだけなのだろうな」
となる可能性がある。

 ましてや、自分が嫌いな有名人が褒めていると、それだけでその企業が嫌いになることもある。
 だからCMは好感度が高い人を使うのだ。
 「ファンになってくれとは言わないが、せめて嫌いにはならないでくれ」
という傾向が、大企業になればなるほど強くなる。
 日清としては
 「CMのことなんかどうでもいい。
 カップヌードル食べておいしかったと言ってくれ」
というのが本音だろう。

 筆者は事業者向けの講演で、
 「クレームが多い企業ほど消費者に期待されている証だ。
 期待しているからこそ何かを伝えたいのであって、期待していない企業には何も言わない。
 クレームが多いことを喜ばなければいけない」
とよく言っている。
 今回のCMに関しても、日清が注目されているからこそ多くの反響があったのであり、どうでもいい企業には、誰も何も言わない。

 大企業は、お客からのどんな声に対しても誠意をもって対応している。
 その声を聞いてどうするかは、それぞれの企業の判断であり、外部の人間には計り知れないものがある。

 日清の本音は、
 「著名人の皆さん、良識のある皆さんだからこそ、そっと見守っていただけないでしょうか。
 私たちの大切なお客に向かって機嫌を損ねるようなことは言わないでいただけないでしょうか」
ということではないか。

(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)




【なんとなくも】



_