2016年5月12日木曜日

『翔んで埼玉』:30年前の復刻マンガがバカ売れ!

_
 「サイタマ」といえば、やはりどうしても『ワンパンマン』を想起してしまうのだが。


東洋経済オンライン 2016年05月12日 高部 知子 :東洋経済オンライン編集部
http://toyokeizai.net/articles/-/116511

55万部!「翔んで埼玉」がバカ売れした理由
30年前の復刻マンガが、なぜ爆発したのか




●30年前に絶版になったギャグマンガがなぜ55万部のヒット作となったのか?

 『このマンガがすごい!comics 翔んで埼玉』(以下『翔んで埼玉』)という埼玉県を題材にしたギャグマンガをご存じだろうか。
 2015年12月の年の瀬に宝島社から発売され、3カ月足らずで55万部を突破したというヒット作品だ。
 だが、これは著者と編集者が汗水垂らして生み出す一般の新作マンガとは違う。
 30年前のマンガの復刻なのである。

 出版不況と言われ続け、「本も雑誌も売れない!」という悲鳴があふれる出版界にあって、なぜこの本はバカ売れしたのだろうか。

■マツコの番組で紹介されて火がついた

 『翔んで埼玉』は、埼玉育ちの美少年が東京都民の埼玉弾圧に立ち向かうというストーリーで、ここ数年、ひそかなブームの「地方ディス」にマッチしたと言える。
 ブームの先駆けはドラマ化もされた清野とおるのマンガ『東京都北区赤羽』だろう。
 地方を愛をもってディスリスペクト(侮辱)したマンガの1ジャンルをこう呼ぶが、2012年にリリースされたスマホアプリ「ぐんまのやぼう」も、一連の流れと言える。

 ヒットの原動力は、あった。『翔んで埼玉』が売れるいちばんのきっかけとなったのは、11月にマツコデラックスのテレビ番組「月曜から夜ふかし」で紹介されたことだ。
 「東京で埼玉県民が虐げられる」ストーリーが衝撃だと、視聴者からのクチコミからマンガの内容が映され、ネットでも拡散していった。

 このとき紹介されたのは、「パタリロ!」の著者である魔夜峰央(まやみねお)氏が白泉社から1986年に刊行し、絶版になった『やおい君の日常的でない生活』に掲載されていた「翔んで埼玉」だった。

 少しわかりづらいが、30年前に白泉社から出版されたのは「やおい君の日常的でない生活」というタイトルの単行本。
 ここには「やおい君の日常的でない生活」「翔んで埼玉」「時の流れに」の3本の作品が収録されていた。
 12月末に宝島社から復刊されたのは、内容はまったく同じものだが、タイトルを『翔んで埼玉』に変えて、収録作品の掲載順も逆になっている。
 そもそも1986年に白泉社から刊行したはずのマンガが、なぜ宝島社から復刊されることになったのだろうか。

 話は「月曜から夜ふかし」放送の半年ほど前にさかのぼる。
 宝島社で『翔んで埼玉』の編集を担当したのは、「このマンガがすごい!」編集部でムック、書籍、ウェブサイトの編集長を務める薗部真一氏だ。
 同編集部では月に1度アンケートを基に「いま読むべきマンガのランキング」を発表する。
 この選定に参加する“選者”から2015年夏ごろ、「このマンガいまネットで盛り上がってるぜ」「これ復刊したほうがいいよ」という声が上がってきたのが『翔んで埼玉』だった。
 「その声はひとりや二人ではなかった」と薗部氏は振り返る。
 薗部氏は以前に「TJMOOK 大人の少女マンガ手帖」というムックを通じて、魔夜氏とは交流があった。
 そこでさっそく魔夜氏に連絡を取る。
 「復刊したいと連絡を取ると、そんな作品あったっけ?ってノリで(笑)。
 先生は一度描いたマンガの内容は忘れているみたいですね」(薗部氏)。

 しかし、問題が発生。
 なんと言っても30年前に出版されたマンガ。
 原画など残っていない。
 薗部氏は“原稿”を入手するためネットを探し回った。
 おそらく市場に出ている最後の2冊を、1冊はAmazonで、もう1冊は古書店で3000円前後で入手した。
 表紙のイラストも書き下ろしではなく、マンガの1コマを拡大して色をつけた。
 「魔夜先生の描く線はキレイなんですよね。
 だから、拡大してもまったく問題ないんです」(薗部氏)。

 ■予約だけで初版部数を超えた

 そして発売1カ月ほど前に「月曜から夜ふかし」でこのマンガを紹介。
 まったくの偶然らしい。
 「企画段階での部数は2万5000部だったんです。
 これでも十分多いんですけどね。
 夜ふかしオンエア後の反響がすごくて、予約段階で2万5000部を超えてしまいました」(薗部氏)。

 宝島社は地方ディスマンガばかりを収録した『このマンガがすごい!comics この「地方ディス」マンガがひどい! 』(左)も発売している
 刷り部数を増やすために、発売日を5日ほど延期した。
 「結局20万部刷ろうという話になって。
 ビックリですよね(笑)。
 20万部刷って重版して、2月末に33万5000部、3月末時点で55万部を突破しました」(薗部氏)。

 価格は700円(税抜き)。
 さぞや宝島社の懐を潤していることだろう。

 ところで『翔んで埼玉』、実際はどんな人が買っているのだろうか。
 宝島社のデータによると、『翔んで埼玉』売り上げの3割は埼玉県内。
 なるほど、埼玉県の人口は726万8405人(2016年4月1日現在)と都道府県別では全国で第5位を誇る。
 同じ“地方”でも、赤羽や群馬県とは格が違うわけだ。

 なお、購入者の男女比は、男性が35%、女性が65%と、圧倒的に女性が多い。
 いちばん多い購入者年代は「40代女性」(24%)だ。

 『翔んで埼玉』の判型(本のサイズ)は、通常のコミックに比べて、2まわりほど大きい「A5判」で、今はやりの「コミックエッセイ」本と同じサイズである。
 もしや、女性ウケを狙ってこのサイズに? 
 「いえ……たまたま白泉社で出していたサイズがA5だったので(笑)。
 でもそうですね、コミックエッセイコーナーにも置かれていますね」(薗部氏)。
 コミックエッセイコーナーに置かれることで、マンガファン以外の層も取り込めたのだろう。

■埼玉県出身の著名人に本を送ったが……

 初版20万部からわずか3カ月で55万部とは、さぞかしすごい販促活動を行ったのだろうか。
 神木隆之介さんやAKB48小嶋陽菜さんなど、埼玉県出身の著名人は多い。
 埼玉県に縁のある著名人には本を送ったというが、実は、それが功を奏した印象はないと薗部さんは言う。

 ただ、こういうことがあった。
 「アンジュルムというハロープロジェクトのアイドルと仕事させていただいたときに、本をあげたんですよ。
 そしたらいつのまにか、モーニング娘のメンバーの方が読んだと、ツイッターに書かれていることがありました。
 楽屋に置いてあったのを読んだそうです。
 関係あるのかもしれませんね」(薗部氏)。

 本を送った人が直接ツイッターなどのSNSで書いたわけではないが、回り回って読んだ人がネットに書いたという印象を受けるという。
 そうしてじわじわとネットで口コミが広まっていった。

 そのほか、お正月時期に西武鉄道と東武鉄道の車内に「シール張り」の広告を出したことも、地方から埼玉に帰省した人に多く見られていたようで、効果が大きかったようだ。

■埼玉県知事から「お墨付き」

 埼玉県民をディスる内容のマンガでありながら、埼玉県知事からオフィシャルコメントが寄せられ、これもまた話題を呼んだ。
 1月に埼玉県の観光イベントに招待され、上田清司埼玉県知事にサイン本をプレゼントしたところ、苦々しい顔をしながらも、「悪名は無名に勝る」と言ってくれたそうだ。
 埼玉県知事や各市長のコメントは「このマンガがすごい!WEB」で読める。

 「魔夜さんが面白くて、今度の選挙で知事のこと"応援する”ってコメントしているんですけど、先生は今、神奈川県民だから応援できないんですよ(笑)」(薗部氏)。
 現在の目標部数は100万部。
 今後は映像化など、メディア展開を考えているという。

 ちなみに、おそらく2匹目のドジョウを狙って3月25日にPHPが発売した魔夜氏復刻作品第2弾『う~ん、マンダム。』は現時点で3万2000部。
 やはり、『翔んで埼玉』はモンスターのようである。
 ストーリーが未完で終わっている『翔んで埼玉』、読者としては、続編を期待したいところだ。



このマンガがすごい!web 2016/02/15
http://konomanga.jp/special/56386-2

衝撃の埼玉ディスマンガ『翔んで埼玉』に、
埼玉県知事激怒……!?

 『月曜から夜ふかし』、『直撃LIVE グッディ!』、日本経済新聞など、各メディアで取り上げられている人気爆発中の衝撃の埼玉ディスマンガ『翔んで埼玉』。
 みなさまにご好評いただき、ついに累計30万部を突破!
 ご購入いただいたみなさま、ありがとうございます!

 そう、じつはこの『翔んで埼玉』の大ヒットを受けて、埼玉県の魅力をPRする観光交流会2016「埼玉トラベルマート」に呼んでいただいた「このマンガがすごい!」編集部。
 せっかくの機会だし……と、『翔んで埼玉』に描かれていたとおり、本当に「埼玉から東京へ行くには手形が必要」なのかどうかを確かめるべく、参加させていただくことに。


●埼玉県民は手形がないと東京に入れない……?

 ……とはいうものの、このような埼玉ディスマンガを刊行した我々に、埼玉のみなさまはお怒りなのでは……?
 我々は本当に生きて会場を出られるのか?
 もしかして『翔んで埼玉』に描かれていた埼玉県民用の食事メニュー「下水ライス」を食べさせるために、交流会に呼んだのではないのだろうか……。
不安はどんどん広がっていきます。

 しかも、会場には上田清司埼玉県知事の姿も! 
 「このマンガがすごい!」編集部の命運やいかに……!?

 ここに貴方の知らない埼玉の真の姿が……!?(ありません)


●埼玉県知事閣下は、県民から年貢を取り立てている……!?

■埼玉ディスマンガを前に、知事激怒……!?

 じつはこんなこともあろうかと、事前に知事宛の魔夜峰央先生の直筆サインの入った『翔んで埼玉』の単行本を用意しておいた「このマンガがすごい!」編集長。

 突然渡された埼玉ディスマンガを前に、上田知事は拳を持ち上げて……
 激怒!?

 ……というのは嘘で、

 実際はにっこりと単行本を受け取ってくださったのです。
 さらに、
 「悪名は無名に勝る。」
という、すばらしいお言葉までいただいてしまいました。
 さすがは、埼玉県知事! お心が広い! 人間の鑑のようなお方だ!

 こうして我々は無事に上田知事との面会を終え、あたたかい埼玉県のみなさまといっしょに、草加せんべいや地酒など、埼玉県の物産品をおいしくいただいたのでした。
 やっぱり埼玉は最高です!

■じつは、埼玉県の各市長からも続々とコメントが!?

 上田知事から『翔んで埼玉』へあたたかいメッセージをいただいて、完全に調子に乗ってしまった「このマンガがすごい!」編集部。
 埼玉県各市の市長さんに本をお送りしたところ、なんと「所沢市」「行田市」「飯能市」の各市長のみなさまから、著者の魔夜先生への激励コメントをいただきました!

★所沢市長・藤本正人氏
 『パタリロ!』の作者が、こんな本も出されていたとはついぞ知りませんでした。
 埼玉のそして所沢の宣伝をしていただき、苦笑しながら感謝しています。
 魔夜峰央先生は所沢にお住まいだったとのことで、とてもうれしく思います。
 この漫画が どんどん宣伝され、日本中に広まればさらにうれしいです。
 感想を、というので家に本を持ち帰ったところ「お父さんも買ったの?」と娘に言われました。
 既に買って読んでいたのだ……。
 ええいっ、こうなれば麗・麻美の活躍とブームが本市に吉と出ることを願いたい。

★行田市長・工藤正司氏
 『翔んで埼玉』は、よい意味で読者の想像を裏切る展開で、たいへん楽しく読ませていただきました。
 約30年を経て、今の埼玉であればどのように描かれ、どのような結末を迎えるのか、続編があれば読んでみたいと思います。
 埼玉県は災害が少なく暮らしやすい土地柄もあって、おおらかな人が多いと言われていますが、この勢いにのって、全国各地に埼玉の魅力をどんどんPRしていきたいですね。
 機会がありましたら、「埼玉県名発祥の地」行田市にもぜひお越しください。

★飯能市長・大久保勝氏
 『翔んで埼玉』により、さまざまなところで埼玉県が話題になっているとのことで、魔夜峰央先生とこの作品の人気の高さを感じるところです。本市内の書店でも大きく取り上げられており、たいへん注目されていることがうかがえます。
 今後は埼玉県のみならず、わがまち飯能市もぜひ取り上げていただきたいと思います。

 そして、なんと著者の魔夜先生からお返しのメッセージ!!
 市長のみなさまからのあたたかいメッセージを受けて、魔夜先生は……

 「知事、市長、次の選挙応援します!」
と、こちらもエールでお返ししました。
 いやあ、素敵なエール交換になりましたねっ。

上田知事、「所沢市」「行田市」「飯能市」の各市長のみなさま、本当に本当にありがとうございました!
(そして、スミマセン)