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デーリー東北新聞社 11/6(日) 10:21配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161106-00010002-dtohoku-l02
スルメイカはどこへ?
八戸港、不漁続きで価格高騰
マイワシ、サバは謎の大漁

●全国的にスルメイカの不漁が続き、価格高騰も止まらない。特に太平洋に来遊する冬季群が顕著=7月、八戸港
▼冬季群の変調
全国的にスルメイカの不漁が続いている。
八戸港では2年連続となり、販売価格も天井知らずで上昇。
全国一の水揚げを誇り、加工会社も集積する八戸にとっては死活問題だ。
「こんなに取れないのは初めて」。
ベテラン漁師も口をそろえる。
日本の近海で一体、何が起きているのか―。
1年で寿命を終えるスルメイカには二つの「群」がある。
★.一つは秋に山陰沖~東シナ海北部で生まれる「秋季発生系群」で、
★.もう一つは冬にもっと南側の九州~東シナ海で生まれる「冬季発生系群」だ。
秋季群は日本海を回遊して成長。
冬季群は太平洋を北上し、南下の際は主に津軽海峡を日本海へ抜ける。
八戸などの三陸沖や、北海道東沖で夏~秋にかけて取れるのは冬季群となる。

今年の不漁は、太平洋の方が著しい。
特に主要産地の一つである道東沖は壊滅的。
釧路港は前年比2割以下で、ほかは軒並み1割以下だ。
そこより南の八戸近海は比較的健闘しているが、それでも不漁だった前年の7割にすぎない。
一方、日本海で秋季群を漁獲する中型イカ釣り船の八戸への水揚げは前年より1割の減少にとどまる。
どうやら、冬季群が大きな問題を抱えているようだ。
▼南の海で何が
「原因は分からないが、冬季群の生き残りが少なかった」。
東北区水産研究所・浮魚いか資源グループ(八戸市)の木所英昭グループ長は指摘する。
潮や水温の影響で漁場が形成されないのではなく、イカそのものが少ないという意味だ。
黒潮に乗って太平洋を北上する冬季群のイカ。
特に小さいうちは環境変化に弱く「ちょっと変わると死んでしまう」(木所氏)。
今年のイカは「頭が良くてどこかに隠れている」(漁師)のではなく、どこにもいない可能性がある。
冬季群が生まれる東シナ海の産卵場の変化を指摘する声も。
函館頭足類科学研究所(北海道函館市)の桜井泰憲所長は
「イカが生まれる冬場の海水温が低く、産卵場が例年より縮小した。
生き残りが少ない要因の一つ」
との見解を示す。
▼地球規模の変動
イカの不漁に象徴されるように日本近海で起きている何らかの変化。
海水温が影響しているのだろうか。
「PDO」という、気象庁発表の指数がある。
日本周辺を含む北太平洋の十数年規模の水温変化をデータ化したものだ。
地球規模の気候変動を捉えている。
それを見ると、確かに2014年から海水温が冷たくなる時期へ転じている。
00年からそれまでは温かい時期だった。
だからと言って今回も冷たい時期がこのまま続くかどうか分からないし、海水温とイカ資源の因果関係も現時点では明確でない。
ただ、1970年~88年ごろにも冬季群の不漁が続いた。
木所氏によると、その時も海水温が冷たい状況が続き、東シナ海の産卵場は“消滅”。
太平洋にイカは来遊せず、日本海の秋季群のみとなった。
もし今年の不漁が中長期的な海水温の変化が要因だとしたら…。
イカ以外にも不気味な変調がある。
かつて「大衆魚」と呼ばれたのに、一時は全く取れなくなったマイワシの豊漁。
八戸の水産関係者の間でささやかれ始めた言葉がある。
「魚種交代」だ―。
▼魚種交代
八戸沖で大中型巻き網船団によるイカ漁が不調だった7~9月、釧路港を拠点とする北海道東沖の漁ではマイワシの豊漁が続き、八戸港へも大量に水揚げされた。
海水温が冷たくなると増える魚として知られ、
水温変動によって海の生態系が変わる「魚種交代」
を代表する魚だ。
1970年代後半~90年代前半には道東沖を中心に大量に取れたが、その後はぱったり消えた。
最近になって資源回復の兆しがあり、14年からは道内だけではさばけず、運搬船で八戸へも回るようになった。
9月は八戸近海でのサバ不調とも重なり、市場では「『締めいわし』を売るしかない」との冗談も飛んだ。
だが今は「イワシ製品を開発しなければ」との切実な声に変わりつつある。
八戸近海での漁獲は少なかった。
だが海にいる以上は、潮の変化などでいずれ来遊する可能性がある。
実はイカと並び「水産八戸」を屋台骨として支えるサバも、イワシと同様に増加傾向にあるのだが…。
▼問題はサイズ
10月までは八戸近海を含む三陸沖で漁獲が少なかったマサバ。
11月3日に5千トン近く取れ、「近年ない大漁」(市場関係者)にハマは沸いた。
1日でさばき切れず、水揚げを2日間に分けたほどだ。
マサバは海にいたが、潮の加減などで良い漁場が形成されなかっただけ。
イカと違って見つかれば取れる。
問題はサイズだ。
300グラム前後の小型が主体で、締めさばに向く500グラム超が少ない。
本来なら大きくなるはずの3年魚以上が小さいままなのだ。
「多過ぎるのが問題」との指摘がある。
餌が十分に行き渡らない「密度効果」が発生している可能性だ。
70年代初めもマイワシと同時にマサバが増えた。
だが数年で減少に転じ、海はマイワシの“一人勝ち”状態に。
「マイワシとサバは共存できない」と当時を知る市場関係者。
マイワシが増えると、サバの餌となるセグロイワシが減るという水産庁のデータも気になる。
現状は「いないイカ」と「い過ぎるサバ」―。
二本柱の変調により、八戸は「今までにない試練の時」(加工業者)を迎えている。
▼イカの街の針路
70年代から20年も続いたイカの長期不漁時、生き残りを懸けた八戸は海外へ活路を見いだした。
大型イカ釣り船がニュージーランドやアルゼンチン、ペルーなどへ次々漁場を広げた。
だが資源管理が厳しくなった現在は、そうした漁場からも閉め出されている。
今年の不漁が数年限りの短期的な変化にすぎず、来年は例年通りに揚がるかもしれない。
そうすれば、地球規模の長期的な水温変動が要因という懸念は杞憂(きゆう)に終わる。
東北区水産研究所・浮魚いか資源グループ(八戸市)の木所英昭グループ長は「冬季発生系群が生まれる東シナ海の海水温を注視したい」とする。
「イカの街」の針路を見定めるため、当面は南の海から目を離せない。
デーリー東北新聞社
最終更新:11/6(日) 10:21
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